観光ブランドで引力ある地域をつくる(by岩崎邦彦)

 地方創生が2014年に国の政策に掲げられて5年が経ちますが、徐々にトーンダウンしてきました。地方の人口減少を政策課題にして、都会地から女性・若者・高齢者の呼び込みをしようとしたものの、思うような成果が出ないためでしょう。
 人口減少は全国的な現象ですから、人を増やそうという試みは地域間での人口の奪い合いになります。それで成果を出すことは困難です。人口が増えている東京圏から人を呼び込むのも東京以上の魅力を示す必要がありハードルの高い話です。それよりも、人口減少を前提にして地域が豊かさを維持できるようにするにはどうするかを考えるべきでしょう。
 「これからの地域は、地域引力を生み出すことで多くの人の交流を引き起こし、幸福度を高めるべきであり、そのための観光ブランドづくりを考えるべき」と岩崎邦彦静岡県立大学教授は言います(岩崎邦彦『地域引力を生み出す観光ブランドの教科書日本経済新聞出版社)。
 岩崎教授が提唱しているのは、観光ブランドによる観光客数増加ではなく、観光ブランドによる地域引力の創造で地域の幸福度を高めることです。教授の著作では観光大国や観光立国の幸福度が低いことがデータで示されています。ただ観光客数を増やしても地域のためにはならないことがわかります。問題をより広く捉えて、地域引力を生み出すことで人の交流を活性化することを考える。そのシンボルが観光ブランドであり、「量の観光」から「質の観光」への転換を目指すことで、観光客以外の人の交流にもつながり、持続可能な地域づくりが可能になるというのが岩崎教授の主張です。
 『地域引力を生み出す観光ブランドの教科書』は、単なる観光ブランドづくりの本ではなく、持続可能な地域づくりを行うための指南書として読まれるべきでしょう。