小企業がコロナ禍を生き抜くために必要な『引き算する勇気』

 コロナ禍を企業が乗り切るために、新分野進出が推奨されたり、『両利きの経営』(深化と探索のバランスを取る経営)が流行したりしています。様々な打ち手に目移りする経営者が多いですが、いたずらに手を広げれば不毛な消耗戦に陥るだけです。そこで注目してほしいのが「引き算する経営」です。

 人口減少トレンドにコロナ禍が重なったことで、需要の縮小と競合の激化は今後いっそう進みます。厳しい経営環境を生き抜くには、自社の個性を明確にして新しい時代に向いた価値を提案していかなければなりません。「差別化」「棲み分け」をより徹底して選ばれる企業になる。そのために「引き算」が重要になります。

 岩崎邦彦静岡県立大学教授の『引き算する勇気』(日経ビジネス人文庫)では、「引き算する経営」の必要性と具体的な方法が丁寧に語られています。経営資源に限りのある小企業にこそ必要であること、うまく「引き算」すれば価値が生まれること、その結果として差別化が図られ業績が目に見えて向上すること、がわかりやすく伝わり、納得できます。

 実際に「引き算」して飛躍した小企業も紹介されています。展示物をクラゲに絞り込んで蘇った水族館、喫茶店からカレー専門店に絞り込んで世界一になったカレーチェーン、減築して「お二人様」に客層を絞り込んだ旅館、商品をワインボトル入りの高級緑茶に絞り込んだ緑茶販売店など。「引き算」することで個性が明確になり、価値が生まれ、集客力が高まり、業績が向上する流れができています。

 「引き算する経営」のポイントは、「引き算」に対する恐怖を乗り越える勇気だ、と岩崎教授は言います。多くの小企業が勇気をもって「引き算」に取り組み、コロナ禍を生き抜いてほしいと思います。