女性社員の熱が、乗客減に悩むバス会社に新たな価値をもたらしました(日本政策金融公庫総合研究所編『新規開業白書2026年版』P121-124、サウナイキタイMAGAZINE「ドキュメント!サバスをつくった人々」)。
客数の減少が続いていた神姫バス(株)(兵庫県姫路市)は、コロナ禍で客数減少に拍車がかかり、危機感が高まっていました。そんな中、社員である松原安理佐さんが「サウナ×バス」という前例のない挑戦に踏み出し、物語は動き出しました。
新規事業を考える部署に所属していた彼女は、海外事例をヒントに「路線バスをそのままサウナにできないか」と発想します。しかし、社内の専任は松原さん一人だけ。事業化の道筋も、技術的な前例もない。だから決断しました―「出向起業という形で会社を出て、自分でやろう」。
出向起業とは、大企業などに所属したまま自ら会社を設立し、その会社へ出向して新規事業開発を行う起業形態です。経済産業省の補助金制度で支援されていました(注:補助金制度は2025年度からJISSUIが引き継いでいます)。
松原さんは補助金とVCからの出資を受けて2021年5月に会社を立ち上げました。起業後にまず直面したのは「バスが手に入らない」という壁。観光バスではなく、路線バスで実現したい。半年以上待って手に入った一台が、「サバス」誕生の起点となりました。
そこからは試行錯誤です。サウナ専門業者にサウナ設置を相談しても「温泉施設と同じ性能を保証できない」と断られる。バス会社にもサウナの知見はない。設計を担当した建設設計事務所のスタッフとともに、図面の寸法違い、揺れによる水平のズレ、熱源の安全性など、前例のない課題を一つずつ手作業で解決していきました。
心強い味方となったのが、神姫バスグループの車両整備会社の整備士たち。廃パーツ置き場から宝物のような部品を見つけ出し、座席レイアウトをサウナベンチに転用し、ウォッシャーノズルをロウリュ用に活かすなど、バスを知り尽くした職人ならではの発想が形になりました。皆が楽しみながらアイデアを出し合い「走るサウナ」を作り上げていきました。
こうして完成したサバスは、街にサウナを届ける新しい存在であり、サウナのない場所を「サウナのある場所」へと変える価値創造の象徴です。松原さんの「面白そうだからやってみたい」という好奇心と、仲間たちの技術と情熱が結晶したサバス。女性社員の熱が職人たちを動かし、地域に未来への光をもたらしました。