人口減少で患者と医師の不足が同時に進み、地域の医療機関の統廃合が進んでいます。地域住民にとっては、生活の根幹に関わる重大事であり、病院がなくなることで人口流出が進むかもしれない自治体にとっても危機的な事態です。
この問題に対する国の対応は、地域医療構想を定めて医療機関の適切な統廃合を進めることですが、それで地域のニーズが満たされるのかという問題は残ります。そこに経営学の観点から切り込んで、医療のあるべき姿を論じた著作が出版されました。岩崎邦彦著『医療のマーケティング教科書 どうすれば選ばれる病院・医院になれるのか』(日本経済新聞出版)です。
岩崎邦彦氏は静岡県立大学経営学部教授で、マーケティングの専門家です。これまでも日本経済新聞出版から6冊のマーケティング関連書籍を発刊され、本書が7冊目になります。小企業、農業、観光業、引き算戦略、ブランドづくり、海外展開といった時代に即したテーマでマーケティングの重要性を伝えてきた岩崎教授が今回、選んだテーマは、医療です。増える高齢者と減る子どもへの医療ニーズが同時に高まる今、医療機関は新たな対応を求められています。
人口減少が進むにつれて高まる国民の不安の根源にあるものは生存の欲求であり、それに応える主役が医療です。しかし進歩する医療はその限界も明らかにしつつあり、認知症などは治療できるわけではなく、単なる延命治療も批判されています。治療+αが求められています。
医療は「なおす」ものから「いやす」ものへとパラダイムチェンジして、医療機関は介護・保育施設との連携も図りながら、地域の不安を解消できる組織へと自己改革する必要があります。
今こそ医療のあるべき姿を国民が共通認識として持ち、安心して暮らせる社会を創り出す時です。岩崎教授の著作からは、これからの社会づくりを考えるうえで大きなヒントがもらえます。医療関係者だけでなく、地域の未来を考える方々に広く読んでいただきたいと思います。