超明快な『日本人の勝算』(byデービッド・アトキンソン)

 人口減少時代を迎えた日本が豊かさを維持するためには生産性の向上が必要と言われていますが、そのために何をすべきか。伝説のアナリストとして知られるデービッド・アトキンソン氏は、最低賃金の引き上げと大人の再教育であると主張します(デービッド・アトキンソン日本人の勝算:人口減少×高齢化×資本主義東洋経済新報社)。
 日本の賃金水準がここ数十年低迷しているのは、企業が利益を労働者に十分還元していないからであり、最低賃金を引き上げれば、所得水準が高まるとともに、企業も生産性を向上させる施策に本気で取り組む。それを実効性あるものにするために、人材の再教育が必要、という氏の主張は明快で力強いと思います。
 日本の労働者の質は世界的に高いのに十分に活用されず、相応の賃金が支払われていないという指摘はショッキングである反面、納得する人も多いはずです。あれだけ学校教育にお金をかけて有名大学を卒業させた人材が、低能であるわけはない。問題は、その人材を使いこなせない今の企業の組織態勢とその戦略・戦術にあると思います。リスクを恐れるあまり、企業としての目的を明確にせず総花的な方針を立ててしまい、戦略は保険をかけて両論併記となり、戦術は他社の真似をしてしまう。その結果、同質化が進み、レッドオーシャンから抜け出せない悪循環に陥っています。そのしわ寄せが、労働者の賃金抑制や非正規雇用の多用となり、デフレが続く事態となっているわけです。
 賃上げと人材の再教育は、国民が一丸となって一刻も早く取り組むべき我が国の課題であると思います。