まちづくりの観点から見た小企業の意義

 「日本が経済成長するためには、生産性が低い小企業を整理統合すべき」との提言が出されて物議を醸しています(デービッド・アトキンソン国運の分岐点講談社)。エコノミストとして実績があり、我が国の政策にも影響力のある企業経営者が出したものです。しかし、この提言は、国と企業の生産性に限った議論で偏りがあります。小企業は何のために存在するのか。あらためて考えてみましょう。
 小企業は、経済活動を行う最小単位です。人と人が出会い、お互いの持つ価値を認めて、その価値を交換する。この活動を行う最小の主体が小企業です。ある地点で経済活動が行われ、持続すると、人の流れが増え、その地に定住する人が増えます。人の集まりが膨らみ、まちができます。小企業の活動は、まちという生き物の存続を支えています。小企業が活動しなくなると、まちは衰退に向かい、最後には消滅します。小企業の活動は、まちをつくり、維持する活動と言えます。
 まちに元気がある、ないと言われますが、元気とは小企業の活動です。小企業が活発に活動している地域は元気があります。小企業の活動が沈滞している地域は元気がありません。人と人がface to faceで触れ合い、互いの価値を認め、交換を行うから地域に活気が生まれるのです。大企業ではできないことです。大企業は既存の価値を効率的・効果的に流通させることは得意ですが、新たな価値を生み出したり、小さなニーズに応えたりすることは得意ではありません。大企業だけでは、まちは元気にならないのです。
 人はそれぞれニーズが異なり、価値観も異なります。異なる価値観の人と人が触れ合い、新しい価値が生まれ、交換が生まれる創発を担うのは小企業の役割です。個々人の自由で細かいニーズに応えるのも小企業の役割です。小企業が小さな隙間のニーズを埋めることで、まちが成り立つのです。見た目は地味でも、生産性が低くても、まちづくりに貢献している小企業はたくさんあります。まちの一部として機能している限り、小企業には十分な意義があります。
 確かに、環境変化に適応できず廃業を選ぶ小企業も多々存在します。今、大廃業時代と言われていますが、廃業する企業のほとんどは小企業です。しかし、小企業の廃業が多いからといって、小企業に意義がないわけではありません。まちを構成する貴重な存在です。できるだけ廃業しないよう支援すべきです。
 まちづくりの観点から小企業の意義を再確認し、適切な支援を行うことが必要なのだと思います。