小企業経営がもたらす幸福感

 1980年代後半のバブル経済期にインターネットが普及し始めた頃、「これからは事業規模に関わらず情報発信できるので、小企業の時代がやってくる」という論調が流行りました。ところがバブル崩壊から長期不況へと続き、小企業の大量廃業が止まらなくなりました。今や大企業がITを駆使して細かい需要もしらみつぶしに吸い上げるため、多くの業種で小企業は後手に回りがちです。「小企業の時代」を言う人はいなくなりました。しかし小企業のすばらしさは失われていないと思います。
 小企業は、顔の見える関係で人と人を結び付けて価値を生み、マネーを生みます。地域経済を構成する最小単位が小企業です。小企業なくして地域経済は成り立ちません。地域住民の身近にあり、人と人が触れ合い、働き合い、価値を交換し、豊かになる場が小企業なのです。
 豊かさは大企業で働かなければ得られないのではないかという意見もあるでしょう。しかし小企業の経営者として働くことで得られる豊かさもあります。自己決定から得られる幸福感です。最近の研究では、幸福感は所得よりも自己決定からもたらされるという結論が報告されています(西村和雄・八木匡「幸福感と自己決定―日本における実証研究」RIETI Discussion Paper Series 18-J-026)。
 小企業で自己決定することで得られる幸福感は、所得にも勝るということです。これがアントレプレナーシップの源泉です。この認識が常識になった時、我が国の起業は活発になるでしょう。