人口減少の危機を主張するのは不適切

 人口減少が危機的なものだという報道が多くなされています。本当にそうでしょうか。人口増加が良いことだという価値観に基づけば、人口減少は悪いことに思えるかもしれません。人口増加が良いと思われるのは経済が成長し、所得水準が向上するからです。戦後の日本は、団塊の世代を核とする人口の増加により、経済も成長しました。その結果、日本は世界最大の債権国となるほど豊かになりました。逆に言えば、これ以上の豊かさを求めることは無理があるくらい豊かになりました。こうした状況で人口が減少し、豊かさの一部が損なわれるとしても、それを危機と呼ぶのは適切ではありません。
 国立社会保障人口問題研究所の最新の推計では、日本の人口は2053年に1億人を割り、9,924万人になるそうです。これは1966年頃の水準(9,904万人)に相当します。1966年といえば高度経済成長期の真っただ中にあり、国をあげて勢いづいていた頃です。その頃は、1億人の人口が少なくて危機的だとは誰も思っていませんでした。
 1972年になると、ローマクラブが発表した『成長の限界』に影響されて、日本でも少子化が必要であると言われ出しました。結果1975年から出生率が2.0を切り、少子化が始まりました(2010年まで人口が減少しなかったのは、寿命が延び続けたためです)。1972〜1975年頃の日本の人口は約1億1,000万人です。当時の日本人はこの人口水準に対して多過ぎるという危機感を感じていたわけです。現在の人口は、これよりさらに1,600万人以上も多い状態です。1970年代前半の常識では、現代は人口がかなり多過ぎる状態といえるでしょう。
 過疎の進む村が衰退している事態は、確かに危機的です。しかし日本全体で人口減少が進んでいる現状を危機と呼ぶのは適切ではありません。人口の水準はまだ高いのです。問題は大都市圏と地方圏の人口格差、そして高齢化への対処の遅れです。地方の生活のすばらしさを家庭や学校で教えたり、高齢者が暮らしやすいまちづくりを行うことで人口流出に歯止めをかける対応が求められています。
 人口減少を恐れず、本当の暮らしやすさとは何かを考えて、地方や高齢者が幸せになる国づくりを行うことが必要だと思います。