支援者が認識すべき「事業承継のジレンマ」

 事業承継支援は今や中小企業政策の最重要課題となっていますが、状況を正しく認識しないと取り組み方を間違えます。
 事業承継支援はなぜ必要なのか。それは事業承継が円滑に進まず廃業が増えているからです。では事業承継はなぜ円滑に進まないのか。それは親族や従業員が承継しないからです。なぜ承継しないのか。それはその事業の収益性や将来性に見込みがないからです。
 もしその事業が儲かるものであり将来有望と思えるなら、承継候補者は身内や社内から現れますから、事業承継は問題になりません。
 問題の本質は、その事業が時代の変化に適応できていないために収益性や将来性が下降しており、魅力が感じられないことです。そんな事業は承継させるべきではないですが、もし承継させたいのなら、収益性や将来性を高めることが必要になります。それが簡単にできれば苦労はないですし、そもそも事業承継は問題にならないでしょう。事業承継が問題になるのは、承継が相当に困難な状況に限られていることを知る必要があります。それでも支援しなければならないのには訳があります。
 事業承継支援が注目される裏には、創業支援がうまくいっていないことがあります。時代に則した新しい商品やサービスを扱う事業が次々と生まれる状況があれば、創業支援で事は足りました。廃業すべき企業はどんどん廃業してもらい、新しい企業にどんどん創業してもらえば産業の新陳代謝が進み、経済は活性化します。しかし創業が期待したほど進まず廃業が激増したために、既存の企業を存続させようと支援者の視点が移動したのです。
 こうした背景を踏まえると、事業承継支援が一筋縄ではいかないことがわかります。本来なら廃業する運命にあった企業を延命させるわけです。運命をどうやって変えるのか。単なる人材のマッチングではすみません。事業のあり方を時代に合ったものに変え、魅力を感じられるものにしなければならない。商品・サービス、従業員、取引先、営業場所、設備などのどれかを変えなければならない。どれを変えるかの経営判断が必要になります。
 事業承継とは言いますが、その内部に革新を含んでいなければ承継はうまくいかない。この「事業承継のジレンマ」をどう克服していくのかが、支援者に求められています(参考文献:落合康裕『事業承継のジレンマ: 後継者の制約と自律のマネジメント白桃書房)。