生産性の議論には要注意

 今年6月に改訂された政府の「日本再興戦略」が、副題を「未来への投資・生産性革命」として、KPIに「サービス産業の労働生産性の伸び率を2.0%に引き上げること」を盛り込みました。
 これを受けて、各地で生産性を引き上げるにはどうしたらよいかという議論が活発化しています。地方の労働生産性は東京と比べると極端に低く、中には2倍の開きがある地方があるという「日本再興戦略」(P2)の指摘に基づき、何とか労働生産性を高めたいという地方の政策担当者の危機感からだと思います。
 今後、労働力人口がいっそう減少していくことを考えれば、労働生産性を高めるという目標設定は正しいでしょう。ただし注意したいのは、労働生産性は、景気動向、人口密度、稼働率、規模の経済性の影響を受けやすいため、地域間の比較は大まかな傾向を示しているにすぎないということです。
 人口密度が高ければ、稼働率が上がり規模の経済性も働きますから、労働生産性は高めに表れる傾向があります。東京都の人口密度は鳥取県の37倍以上あります。当然、労働生産性は東京都の方が高くなります。こうした条件の違いを無視して、鳥取県労働生産性を東京都並みに高めようという議論をすると道を誤ります。
 また、生産性は雇用とトレードオフの関係にありますから、生産性を高めると雇用が減ることもありえます(製造業が良い例です)。女性や高齢者を労働力として活用すると生産性は下がるが、需要が増えるために総生産は増えるという指摘もあります。GDPを増やすためには(生産性を下げそうな)女性や高齢者を労働力として活用する方法も重要です。
 生産性の議論はデリケートな面がありますので、注意する必要があります。