米子の税理士が持つ熱い信条

 企業経営者にとって、身近な経営相談先が税理士です。税務申告のための決算書をまとめる過程で、お金に関するさまざまな悩みを相談できるからです。税理士は、心強い経営アドバイザーといえます。しかし、企業の経営を裏から支える税理士の人となりについて、ご存知の方は決して多くないでしょう。それを知ることのできる貴重な書籍『人生だんだん』(青光社)が出版されました。著者は、米子市税理士法人田中事務所を経営する田中康晴税理士(78歳)です。
 同書では、田中氏の生い立ちから始まり、1,200件以上の顧客数を擁する税理士法人を3人の息子さんたちを含む総勢20名で運営するようになるまでの苦労の歴史が、趣味の釣りや将棋の話を織り込みながら語られています。
 幼いころ病気で耳を悪くされたこと、相次ぐ転校で野球選手の夢が断たれたこと、高校卒業後は衣料品の行商で生計を立てたこと、父の税理士事務所を手伝いながら税理士資格取得まで8年かかったことなどが乾いた筆致で赤裸々に綴られています。強い信念を持つ税理士はいかにして誕生したかが明らかになっていく過程には、自ずと納得させられます。
 田中氏は、税理士としての信条を次のように述べておられます。
「私たちは税理士ですが、節税の仕事に多くの時間を費やす事はありません。なぜならば節税は経営の一部にしか過ぎないからです。私たちはお客様の良きパートナーとして、会社にお金を残して借金を減らしていくお手伝いをする。そんな関係をお客様と築くために会計事務所を営んでいます」
 小さな企業の「町医者」を自認する田中氏。「だんだん」とは「ありがとう」を意味する方言ですが、顧客、恩師、家族といった豊かな人間関係に支えられて今の自分があるという感謝の気持ちから『人生だんだん』を著されました。数字を扱う税理士という仕事が、いかに人間味にあふれたものであるかを感じさせる著作です。