優れた戦略ストーリーは賢者の盲点を衝く(by楠木建)

 戦略ストーリーにはクリティカル・コア(中核的要素)があり、それは一石で何鳥にもなる打ち手であると同時に、一見して非合理に見える打ち手である、と楠木教授一橋大学)は言います(楠木建『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社)。
 スターバックスは、(職場でも家庭でもない)くつろげる第三の場所を提供するというコンセプトを実現するために、ゆっくりとリラックスできる雰囲気の店づくりをして、都会の一等地に出店し(プレミアム立地)、バリスタと呼ばれるコミュニケーションスキルに秀でたスタッフを置き、個々の客の好みに合わせられるよう多彩な味のコーヒーメニューを用意しました。これらの打ち手を繰り出すために、直営方式というクリティカル・コアを置いています。
 直営方式は、多店舗展開するうえでは、一見非合理に見えます。フランチャイズ方式に比べて初期投資が大きく、ランニングコストの負担も重くなるからです。フランチャイズ方式を取れば、低コストだけでなく、低リスクも実現でき、地元に詳しいオーナーを起用できたり、店長のモチベーションも高く維持できます。しかし、フランチャイズ方式にしてしまうと、店舗のオーナーは利益を最大化するために回転率を上げようとしてしまい、スターバックスのコンセプトである「リラックスできる第三の場所」を提供できなくなってしまいます。コンセプトを生かすためには、非合理に見えようと直営方式を取ることが重要なのです。
 スターバックスが直営方式にこだわったことは、一見して非合理ですが、そのおかげで同業他社は、スターバックスのやり方を真似しようとはしませんでした。これがスターバックスに持続的な競争優位をもたらしました。このように、部分的には非合理だが全体では合理性を持つことを、「賢者の盲点を衝く」と楠木教授は言い、これがストーリーの戦略論の面白さであると主張します。
 他社との差別化を図るには、他社が真似したがらない手を打つ必要があります。そのためにクリティカル・コアを持つ戦略ストーリーを考え出すことが重要なのです。非常に示唆に富む指摘だと思います。