中小企業の廃業を前向きに捉えるパラダイムシフト

 「企業の廃業は地域の活力を削ぐため望ましくない」というのが、これまでの常識でした。その常識が変わろうとしています。
 華々しい企業再生の実績で知られる冨山和彦氏は「我が国の中堅・中小企業の数が多すぎ、過当競争になっている、これを脱却するべく会社の数を減らすことは不可避である」と述べています(冨山和彦『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える文藝春秋)。データとして、主要国の廃業率の国際比較を出していますが、イギリスや米国の廃業率が10%前後で推移しているのに対し、日本の廃業率は4%前後で推移しています。欧米の半分くらいしか廃業していないということです。この結果、400万社以上の中堅・中小企業が市場にひしめきあう状態になっているといいます(注:中小企業庁の発表では、2016年の日本の企業数は359万者、うち中小企業・小規模事業者は358万者ですので、400万社という数字はしばらく前の数字だと思われます)。
 冨山氏が指摘する「低すぎる廃業率」が欧米並みに高まると、年間の廃業が20万社以上増えます。この数字は、2025年に127万社の中小企業が廃業の危機に立つという中小企業庁の試算と符合します。つまり、これから日本の廃業率は欧米並みに近づいていくことになるけれども、それを前向きに捉えて日本の生産性向上に活かすべきであり、そのために中堅・中小企業の再編を推し進めなければならない、と冨山氏は指摘していると思います。
 中小企業の集約による生産性向上は、日本の観光振興に大きく貢献した伝説のアナリストであるデービット・アトキンソン氏も提言していることであり、こうした論調がこれからの常識になっていくでしょう。中小企業の廃業を前向きに捉える意識改革が国民に求められています。