「個人の短期的願望(欲望)を追求する資本主義においては、経済が(巨大企業に)縮退していく」と物理学者の長沼伸一郎氏はいいます(長沼伸一郎『現代経済学の直観的方法』講談社)。
長沼氏のいう「縮退」とは、「エントロピー増大の法則」を経済社会に適用して氏が提唱する概念です。当初は、大企業から中小企業までさまざまな企業が相互依存関係にあることでひとつの生態系が作られていたものが、時間を経るにつれて資金の流れが超巨大企業と巨大機関投資家の間だけで回るようになり、末端の中小企業に資金が回らず壊死していく。全体としては量的に大きくなるが、生態系としては劣化する現象をいいます。これはまさに中小企業の減少が進みながら経済成長が続く我が国の状態を言い表しています。氏によれば、環境問題も格差問題も「縮退」から生じているのであり、「縮退」を止めることが現代のさまざまな問題の解決につながる、ただし「縮退」は「エントロピー増大の法則」に基づいて生じている現象であるため、止めることは容易ではないといいます。
「縮退」を止める解決策が見当たらない現状ですが、ヒントになるのではと思われるのが、「縮充」という考えです。コミュニティデザイナーの山崎亮氏が提唱していますが、「これからの日本は、縮みながら充実させて、質感が良く暖かい地域社会をつくる時代に入っていく」と考えて、市民(=生活者)が楽しさをもって社会参加を進めることで、豊かな未来を築こうというものです(山崎亮『縮充する日本「参加」が創り出す人口減少社会の希望』PHP研究所)。これはバリューイノベーションを起こして、さまざまな人同士が支え合う人間関係を生み出すことで全員参加型の経済を作り、持続可能な社会を創り上げることだと思います。
個人の欲望を無限に追求することで成長し、限界に達しつつある資本主義は、節約と助け合いの精神で縮小する時代を充実させていくという新しいパラダイムで修正されるべきでしょう。「縮退」を「縮充」に変える地域ぐるみのアクションが必要です。