シャッター通りとなった商店街の店舗が息を吹き返す。多くの商店主が再生に向けた夢を思い描きながら、実現していないのが現実です。そんな中で、普通の果物店が廃業の危機から見事に立ち直った事例があります。静岡県富士市の吉原商店街の中にある杉山フルーツです(杉山清著『生ゼリーにきょうも行列ができる理由』(セブン&アイ出版))。
1994年に大型スーパーが、97年に地元スーパーが撤退したことにより、集客力を失った商店街は、店舗数が120から半分に減少しました。売上が激減したことに危機感を抱いた杉山清さんは、高級品のギフト需要に特化することを決意しました。そして、ギフトラッピングコーディネーターとフルーツマイスターの資格を取り、高級品の品ぞろえを充実させ、オリジナルのラッピングサービスとオリジナル商品「杉山清の生ゼリー」を売り込むことにしました。
杉山さんは、婿養子で二代目店主である自分を「フルーツアーティスト」と称して、お店を「日本初!!フルーツアーティストの居る果物屋!当店は価格競争でない付加価値をお届けするフルーツギフトショップです」と紹介しました。「フルーツアーティスト杉山清がこだわりぬいて厳選した最高級のフルーツを最高のラッピングでお届けします」とPRすることで、商品に独自の付加価値を付けました。
杉山フルーツは、今、行列のできる店になっています。最高級のクラウンメロンが年間9,000個も売れるのは、「フルーツアーティスト」が選んでラッピングしたという付加価値が付いているからです。オリジナルの生ゼリーは価格が300〜1,000円と通常の3〜10倍しますが、平日は500個、休日は700個も売れます。これも独自の付加価値が評判を呼んでいるからでしょう。
注目すべきは、店主に付加価値をつけることで、商品にも付加価値をつけたことです。個人商店としての王道を行っています。やり手の商店主は、自身の「人」を売ることで経営を成り立たせるからです。まさに「企業は人なり」ということでしょう。立地や規模の不利に負けない個人企業ならではのたくましさが、私たちを元気づけてくれます。