要介護の親との関係を良好にする「ナッジ」

 人生100年時代と言われる今、中高年を悩ます問題は、親と自身の老後のことでしょう。特に老親との人間関係の保ち方で頭を抱える人は数知れません。身近な関係だからと踏み込んだ物言いをして関係をこじらせることはよくあります。しかし、その悩みを聞いてくれる人は周りにいない。そんな「困った」をなんとかするための手引が出版されました。神戸貴子・竹林正樹・鍋山祥子氏らによる『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか』(Gakken)です。

 同書では、介護における8つの困ったケースを取り上げて、その対処法を3人の専門家がアドバイスしています。行動経済学、福祉社会学、看護の専門家がそれぞれの立場と自身の介護経験から、実践的な対処法を語っています。そこで共通するのは、「ナッジ」という話し方を意識して使おうということです。「ナッジ」とは、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー博士が提供した理論で、「相手のセルフイメージを尊重しながら、優しく背中を押す伝え方」を推奨するものです。

 3人の専門家のアドバイスはそれぞれの経験に基づいており、老親への伝え方も一様ではありません。介護には多様な解があり、みんなが知恵を持ち寄って丁寧に対処すれば、事態は良い方向に向かうということがわかります。同書が、介護に悩む多くの人たちの道しるべになることを期待しています。