幻の中京財界史を復刊した商工会議所(名古屋市)

 今、国内で最も景気の勢いがあると言われる名古屋地域ですが、なぜこれほどの勢いがあるのか。それを知るには名古屋経済の歴史にあたることが必要ではないでしょうか。城山三郎先生の幻の処女作『創意に生きる 中京財界史』を読むとそんな思いがします。
 江戸時代末期から昭和初期の名古屋地域は、そうそうたる顔ぶれの起業家であふれていました。毛織物の輸入販売で急成長した紅葉屋の富田重助、松坂屋の祖となる「いとう呉服店」の伊藤祐昌、ヴァイオリン王の鈴木政吉、「名古屋の渋沢栄一」といわれた奥田正香、岡谷鋼機を起こした岡谷惣助、タキヒョーの滝兵右衛門、森村グループの祖となる森村市左衛門、愛知時計の鈴木縈兵衛、電力王と呼ばれた福沢桃介、後にトヨタ自動車を生み出すことになる豊田佐吉など。そうした起業家たちの絶えざる挑戦が熱い筆致で記されています。進取の気性に富んだ起業家たちが、多くの失敗を乗り越えて大事業を成し遂げたことで起業家精神が引き継がれ、今の名古屋の好調があるのだと理解できます。
 同書は、1956年に刊行され絶版、1994年に再刊され絶版となりましたが、先人たちの熱を伝えたいと名古屋商工会議所が2008年に復刊し、新たに年表と索引も添えて会員企業向けに販売しています。激動の時代を生き抜こうとしている多くの企業に大切な学びを与えてくれるでしょう。