自然の風を再現する扇風機(byバルミューダ(株))

 自然の風と同じような風を吹かせる扇風機「The Green Fan」が、2010年に発売され、3万円以上もする高価格にも関わらず飛ぶように売れました。開発したのはベンチャー企業バルミューダ(株)(東京都武蔵野市)です。自然の風を再現できた技術は、2種類の速さの違う風をぶつけ合うことで渦を作らないというアイデアから可能になりました。考え出したのは、ものづくりの経験のなかった寺田玄社長です(寺尾玄『行こう、どこにもなかった方法で』新潮社)。
 扇風機は唯、風を送り出せばよいのではなく、快適感を生み出さなければならないという気づきを、同社は消費者と既存の家電メーカーに与えました。寺田社長は、高校中退後、ヨーロッパを放浪し、帰国後はロックバンドを立ち上げたという異色の経歴の持ち主です。ものづくりの経験が全くなかった寺田氏が、2003年に会社を起こし、苦労の末に斬新な感性を生かした製品開発に成功して、自然な風の扇風機を生み出しました。最近では、最高の香りと食感を実現するトースターも開発して話題になりました。
 寺田社長の持論は、製品ではなく体験を売るということです。扇風機もトースターも単なる機械ではなく、快適な体験を生み出す道具という意味を持っています。利用者が求める心地よさを形にするにはどうしたらよいのか。この視点から逆算して斬新な製品を生み出すのが、寺田社長の方法論です。
 心地よさを提供するベンチャー起業家。これからの起業家像の一つのイメージとして定着しそうです。