子育て支援ブームの盲点

 地方創生で全国の市町村が「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しています。それらの自治体の戦略には、必ずといっていいほど子育て支援策が盛り込まれています。国からの策定指針に「雇用創出、人口流入促進、子育て支援、広域連携」の4本柱が示されたことが大きな理由でしょうが、実際に子育て支援で人口を増やした「奇跡の村」の事例も影響していると思います。
 2015年版中小企業白書(P401〜403)で紹介されていますが、長野県の下條村は、徹底した行財政改革子育て支援で人口を回復させたすばらしい事例です。ピーク時の1950年に6,410人だった人口が1990年には3,859人まで減少しましたが、行政コストを削減した財源で、子供医療費の無料化、保育料引下げ、給食費補助、子育て応援基金創設、入学祝い金、出産祝い金等を整備したことで、人口が2000年に4,024人まで回復しました。これにより「奇跡の村」と呼ばれ、全国から視察が殺到しました。人口はその後も増え、2010年には4,202人を記録しました(国勢調査データ)。
 注意したいのは、その後です。村のホームページでは、2015年12月1日現在の人口は3,948人と、4,000人を切っています。20年近くにわたり増やしてきた人口が、最近は減少傾向にあるのです。この原因はおそらく、近隣の市町村がこぞって下條村を見習い、子育て支援策を充実させたからではないかと思います。子育て支援策で差別化が効かなければ、当然、人口トレンドはかつての減少傾向に戻るでしょう。
 つまり、下條村が人口を増やせたのは、他の地域に先駆けて子育て支援策に力を入れたからであり、近隣地域が同時期に同じことに取組んでいたら、期待したほどの効果は上がらなかっただろうということです。
 差別化しなければ子育て支援策を取っても人口増加の効果は上がりにくい。これは地方創生の総合戦略を各市町村が進めるうえで貴重な教訓でしょう。