脱下請けの意地が生んだ「魔法のフライパン」(三重県)

 工業用部品メーカーの下請けとしてコツコツと努力していたところへ値下げ要請を受け、かけられた言葉が「代わりはいくらでもいる」。この言葉が、錦見鋳造(株)三重県木曽岬町)の錦見社長に、脱下請けを決意させました。バブルが崩壊した後の1992年のことです(中日新聞社経済部編『元気のタネ がんばる東海の企業』中日新聞社)。
 開発に10年近くを費やして自信作「魔法のフライパン」を発売したのは2001年。1枚8,400〜12,600円の高価なフライパンが10年で11万枚以上も売れるヒット商品となりました。
 「魔法のフライパン」の特徴は、熱伝導の良さ。表面温度が200度になるまでにかかる時間が44秒(900WのIH調理器を使用した場合)。食材を入れても温度が下がりにくく、素早く均一に焼けるために、食材の旨み成分を逃がしません。
 こうした魔法を可能にしたのは、同社独自の鋳造技術です。鋳造品は重さで取引価格が決まるため、軽量化することで価値を生み出すという発想が業界にはありませんでした。その業界の常識に挑み、同社は厚さ1.5mm、重さ0.9kgという理想の鉄製フライパンを作り出したのです。
 プロの料理人や料理好きの女性に大人気の「魔法のフライパン」は、今、申込しても納品まで11カ月待ちとなる状態です。
 業界の常識に挑戦し、脱下請けを達成した同社の取組みは、小企業経営者や支援者にとって力強い励ましを与えてくれると思います。