「原体験」よりも必要なのは「商売のセンス」

 今や起業家のバイブルとなった田所雅之氏の『起業の科学』では、ビジネスアイデアを考え出して実現する原動力として、「原体験」の大切さが強調されています。自身の強烈な「原体験」こそが、起業をやり抜く力になるというものですが、この主張に違和感を唱える人もいます。

 ベンチャーキャピタリストの堀新一郎氏は、「起業に原体験は必須ではない。むしろ必要なのは商売のセンスだ」と言います(堀新一郎・琴坂将広・井上大智『STARTUP』)。

 商売のセンスの重要性は、起業家のポール・ホーケン氏も指摘しています。世界200万部突破のスモールビジネスのバイブル『ビジネスを育てる』の中でホーケン氏は「商売のセンスが、ビジネスの明暗を分ける。人が何を欲しているのか、いくらなら支払う気かあるのか。意思決定はどのようにするのか、といったことを理解する力。市場の発信している信号を嗅ぎ取り、学び、自分の頭を切り替える術を知っている。与えられた製品、市場、あるいはニッチ市場にいかにアプローチするか、筋道立てて考えることができる。意思決定を速くする。お金の使い方、ものの買い方、お金の支払い方を教えてくれる」と言います。

 商売のセンスは、子どもの頃に働くことで身につくものだとホーケン氏は考えています。今、小中高校生に起業家教育が広がっていますが、体験型の授業が望まれる理由がここにあるのだと思います。