前掛けを日本文化として世界に広める小企業

 失われゆく日本文化である前掛けを世界に広めたい。その思いを形にして、世界60ヵ国に前掛けを輸出する小企業があります。2000年に創業した(有)エニシング(東京都)です(日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』No.172 P42-45「伝統ある日本の前掛けを世界60カ国に」)。

 同社は漢字Tシャツの企画販売からスタートしました。2004年に前掛けのオーダーメイド販売を手掛けるようになり、西村和弘社長は、100年前の織機で作られる生地の厚さと柔らかさに衝撃を受けるとともに、前掛けが失われゆく日本文化の一つであることを知りました。このすばらしい前掛けを絶やしてはいけないと決意した西村社長は、前掛けを海外に輸出することを思い立ちました。

 日本の食の世界進出に合わせて、前掛けを輸出すれば海外で売れるのではないか。西村社長らは、2007年から海外展開に取り掛かり、ニューヨークで日本食を出す飲食店や日本製品を扱う商社に営業したり、展示会に出展したりしました。しかし手応えは鈍く、米国での展開は思うようにいきませんでした。

 転機は、伝統商品や職人技をリスペクトする風土のある欧州で、ロンドンの展示会に出展したことでした。2015年に出展し、20店舗との取引が開けました。これを機に、欧州を中心にして小売店との直接取引を広げ、輸出先は60ヵ国に及びました。現在は年商1億2,000万円のうちの3割が海外向けです。

 人と人が出会う=ご縁(えにし)が続いていく(ing)ことで役に立つ仕事をしたいとの思いから「エニシング(縁+ing)」と名付けた同社。これからも海外に縁を広げていくことでしょう。