創業のデスバレーを乗り越えた模範的方法

 多くの起業家が創業から3年以内に倒産・廃業してしまうことから、創業後の3年間をデスバレー(死の谷)と呼びます。そのデスバレーを斬新な方法で乗り越えた起業家がいます。滋賀県栗東市で冷凍餃子の通信販売を行う「餃子屋はまだ」(2021年4月創業)の濱田篤志さんです。濱田さんが販売する餃子は、3年先まで注文が入っています(日本政策金融公庫全国創業事例集story「なんと予約は3年待ち!滋賀県発のこだわり餃子」)。

 創業して成功するまでの経緯はこうです。18歳の頃から有名中華チェーン店に勤務し、店長も務めた濱田さんは、自分の店を持ちたいという夢を持つようになりました。勤務を続けながら餃子について研究し、試作したものの写真や動画をSNSにアップしました。するとフォロワーから販売してほしいというDM(ダイレクトメッセージ)が届くようになりました。味に確信が持てるまで商品を作り込んだところで30歳になり、創業しました。SNSを見た地元テレビ局が取材に入り、報道されたことで評判が広がり、電話注文やDMが殺到して、3年先まで予約が埋まるようになりました。

 濱田さんがデスバレーを乗り越えた秘訣は何と言っても「事業の絞り込み」です。中華料理店に勤務していた濱田さんは、中華料理店を開くこともできましたが、提供するものを餃子のみに絞り込みました。そして通信販売できるように、冷凍餃子にする方法を研究して確立しました。「手作り冷凍餃子専門店」という刺さるキャッチフレーズで、口コミが広がるようにしました。商品を餃子に絞り込み、販売方法を通信販売に絞り込むことで、飲食店最大の課題である立地の問題を解決しただけでなく、店舗や材料にかかるコストを最小限に抑えることができました。製造から出荷まですべて濱田さんが一人で行いますので、人件費も最小限です。

 創業前からSNSに情報を流し、マーケティングを行っていた点も模範的です。これにより、自分が作る商品は売れるという確信が持て、事業継続意欲が高まりました。

 濱田さんの創業の方法は、教科書に載せたいくらい模範的です。多くの創業予定の方に参考にしてほしいと思います。