もし書店の四代目後継者が女性起業家だったら

 地方で長年営業してきた書店を女性が引継ぎ、その女性が起業家精神にあふれていたらどうなるか。その答えを示してくれたのが、兵庫県三田市ブックカフェ・オクショウを営む田村恵子さんです(日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』No.169 P32-35「おなかも心も満たすブックカフェ」)。

 オクショウは、1930年に創業した老舗の書店です。JR三田駅に近い商店街の中にあります。田村さんの曽祖父が始めて以後世襲が続き、田村さんで4代目になります。

田村さんは、2009年に家業に入り、2015年に経営を引き継ぎました。アマゾンなどのネット書店に押される逆風の中での事業承継でした。引き継いだ時点で、店舗の存続が危ぶまれていました。危機感を抱いた田村さんは、家族が代々守ってきた商売を続けるために、模索を始めました。

 新聞、雑誌、インターネットから特色ある経営を行っている全国の小規模書店の情報を集め、見て回りました。関西、東京、新潟などの書店を見て回るうちに、ブックカフェに可能性があるのではと考えるようになりました。しかも都会にあるような洗練されたものではなく、田舎にふさわしいアットホームで入りやすいブックカフェにしたらどうだろう。コーヒー、紅茶、スイーツだけでなく、カレーライス、グラタン、定食なども提供するようにしてみたら…。田村さんの挑戦が始まりました。

 カフェを併設するために、3万冊以上あった在庫を10分の1に減らす一方で、料理や育児、園芸や健康など女性や高齢者が好むジャンルを充実させました。本の陳列はテーマごとにまとめてストーリー性を持たせて並べるようにしました。飲食スペースには掘りごたつ席を設けました。食材については、父が知り合いの農家から取れたての野菜を仕入れるようにしました。

 こうした挑戦の結果、売上はリニューアル前を大きく上回るようになりました。地元野菜を使ったこだわりのランチが人気を呼んでいます。女性目線で経営を見直すと、斜陽の事業も蘇るというすばらしい事例だと思います。