7割稼働と三刀流で年輪経営60年の樹脂成形メーカー

 企業経営を学ぶ人なら一度は目にする事例が、トヨタの社長が心酔する伊那食品工業(株)(長野県伊那市)の年輪経営です。長期ビジョンをもって商品開発に絶えず取り組み、景気の浮き沈みに関係なく成長を続けるところがすごいのですが、この年輪経営を実践している中小企業が奈良県広陵町にもあります。1958年創業の樹脂成形メーカー、大和化学工業(株)です(日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』No.165 P30-31「「無理をしない経営」で競争力を生み出す」)。

 同社は部品搬送用トレーなどの自動車関連製品を製造し、大手部品メーカーなどに納めています。即日納品できる対応スピードと、他社が断った案件を引き受ける開発力で納入先の心をつかみ、創業以来60年以上にわたって黒字経営を続けています。まさに年輪経営の実践者と言えるでしょう。

 同社の年輪経営の秘訣は、7割稼働と三刀流です。機械の稼働率を7割に抑え、残業はしません。稼働率が上がってきたら新しい設備を入れて空きを作ります。また、ブロー成形、射出成形、真空成形の3つの手法をすべて一社で行える態勢を敷いています。

 40年前に当時の社長が過労により31歳の若さで急逝したことから、後継社長は「無理をしない経営」を掲げ、週休二日制を導入し、残業なしとしました。標準的な設備しかなく、ブロー成形一本やりだったものを、設備を改造して1990年頃に射出成形、2010年頃に真空成形に対応できるようにしました。こうして年輪経営の基盤が固まりました。

 同社はさらに3Dプリンターを導入して金型を使わない試作をできるようにし、後継者の選定も済ませて2025年の承継に向けて準備を進めています。

 絶えざる革新で時代の変化に対応していくことが年輪経営の神髄であると認識できる、すばらしい事例です。