女子高生たちの熱いビジネスプランバトル「高校生Ring」

 リクルート主催の高校生ビジコン「高校生Ring」は2021年度から始まり、2023年度で3回目となりました。参加する高校生の数も550名→6,186名→25,827名と急速に伸びており、起業に対する高校生の関心の高さがうかがえます。このビジコンの特徴は、2次審査を通過した高校生に、リクルートの社員がコーチとなって起業のスキルを教えてくれるところです。多くの著名起業家を輩出しているリクルート。その現役社員が直に起業について教えてくれるところが大きな魅力となっています。

 2月に行われた最終審査会には、激戦を勝ち残った5チームが参加しましたが、全員が女子高生でした。図らずも女性起業家ビジコンとなった「高校生Ring」でしたが、この女性主導という傾向は、日本政策金融公庫の「高校生ビジネスプラン・グランプリ」マイナビ「キャリア甲子園」も同じです。日本の若者層は、女性が起業に対して積極的という印象です。

 2023年度の「高校生Ring」のグランプリは、病気や怪我の人向けにユニバーサルファッションを提供するサービス、準グランプリは外来魚の釣りをゲーム化することで生態系を守るサービスでした。どちらもオリジナリティ・ポテンシャル・当事者意識を高く評価されての受賞でした。女性の起業には独創性とエネルギーとやる気があふれていると感じさせるものでした。

 人口減少で社会の活力が低下しつつある中、これからは女性の活躍が元気をもたらすと感じさせる、すばらしいビジコンでした。

我が国の起業家支援をリードする日本公庫のプロジェクトX

 日本経済新聞で取り上げられましたが、4月1日から日本政策金融公庫の無担保無保証人での起業家向け融資の限度額が7,200万円に引き上げられました(改正前は3,000万円)。このインパクトは大きいものがあります。

 公庫は「新創業融資制度」という名称で2001年から無担保無保証人条件での起業家向け融資を始めました。当時は、ハイリスクな制度ということで限度額150万円からスタート。金融界の暴挙とも思われた制度は、周囲の心配をよそに、順調に実績を伸ばしました。融資でありながら投資のような条件で資金を提供する画期的な制度は、国内の起業家向け資金提供を促進する起爆剤となり、毎年、数多くの起業家を生み出してきました。起業前または起業直後で決算書作成未了の状態にある起業家への公庫の融資は、年間で2万6千に上ります。

 そして「新創業融資制度」の創設から23年が経過して、ついに限度額が7,200万円に到達しました。表立って語られることはないですが、起業家支援における公庫の貢献は、コロナショック対応と並んで、我が国の金融史に刻まれてよいものです。

 今回、日本公庫が起業家支援にいっそう大胆に踏み込んだことで、我が国のスタートアップ・ブームがより加熱することでしょう。

北海道のスタートアップ支援が本気だとわかる連携協定

 全国各地でブームになりつつあるスタートアップ支援ですが、北海道でも行政機関、金融機関、学術機関が連携する動きが現れています。

 昨年3月15日、北海道が日本政策金融公庫と包括連携協定を結びました。

 今年3月14日、室蘭工業大学が公庫とスタートアップ企業創出を目的とする協定を結びました。22日には、北海道国立大学機構が公庫と北洋銀行、ほくほくフィナンシャルグループと包括連携協定を結びました。

 北海道の行政機関、金融機関、大学が公庫と連携協定を結んで目指すものはスタートアップ創出です。道内にはロケット打ち上げに力を入れる企業やIT企業など、急成長する可能性のある企業がたくさんあります。それを実現させるために、資金面と知識面で強力にバックアップできる公庫と大学が連携することになりました。

 公庫は、創業・スタートアップ支援に70年以上の業歴と実績を持つ政府系金融機関です。大学とタッグを組んでスタートアップ支援に力を入れれば、道内からユニコーン企業が生まれることも夢ではありません。

 北海道がスタートアップの集積地になる日が来ることを期待しています。

ELLEも注目するJK起業は女性の新しい生き方か

 今年度の日本政策金融公庫の高校生ビジコンの優勝者は、高1女子の中村美月さんでした。彼女の快挙は、フランスを本国とする女性ファッション雑誌ELLEに掲載されました(『エル・ジャポン』2024年4月号)。

 中村さんは、日本企業や現地金融機関とともにマイクロファイナンスを用意し、東南アジアに合宿型のIT技能実習校を作るというビジネスプランを披露し、東南アジア女性の就労問題とIT業界の人材不足を解決するものとして高く評価され、優勝しました。両親も兄も起業家で、ビジネスプランを家族に話してフィードバックをもらい検証を繰り返したそうです。今は、実際の起業に向けて動き出しています。

 昨年度の公庫ビジコンの優勝者である本嶋向日葵さんも、フィリピンの女性の貧困問題を解決するための女性起業支援のプランで優勝し、起業の準備をしています。最近のトレンドとして、高校生の段階から起業を目指す女子が増えているように見えます。

 東京都は、5年以内に起業を10倍にするという目標を立てて、高校生に対しても「進学・就職・起業」という選択肢を提示して育成プログラムに力を入れています。こうした起業支援ブームと女性の働き方改革が相乗して、女性の起業ブームが生まれるかもしれません。

 権威ある女性ファッション雑誌も注目するJK起業が、これからの未来を明るくするきっかけとなることを期待しています。

リクルートも注目するエフェクチュエーション

 予測不能の時代に不確実性をコントロールする思考法であるエフェクチュエーションには、リクルートも注目しています。

 人材派遣サービスなどを行うリクルートは、多くの社員が独立して起業するため、定年まで勤める人は少ないと言われます。そんな同社は、高校生向けの起業家教育に力を入れており、高校生Ringというアントレプレナーシップ・プログラムを毎年、行っています。この特設サイトに、エフェクチュエーションについてのインタビュー記事が掲載されました。

 3/5 変化が激しい時代の必修科目?起業家的アプローチ「エフェクチュエーション」に学ぶ

 3/8 学生・若手社会人が最初の一歩を踏み出すための、エフェクチュエーション入門 

 話し手は、神戸大学吉田満梨准教授です。10代・20代の若者が、アントレプレナーシップを身につけ、新しい価値を創造していくには、エフェクチュエーション的な思考が役に立つのではないかという問題意識で行われたインタビューです。その問題意識は正解でした。

 吉田准教授によれば、エフェクチュエーションは、新しいことに挑戦する力として、現代を生きるすべての人が学んで損はないものだそうです。

 エフェクチュエーション的な思考法を身に付けることで、不確実性をコントロールする力が高まるとのことですから、若者だけでなく、多くの人に知っていただきたいスキルだと思います。

VUCA時代に注目される起業法「エフェクチュエーション」

 将来の予測が困難なVUCA時代を迎えて、起業も一筋縄ではいかなくなっています。どれだけ計画を練って起業しても、状況が瞬時に変わり、事業を軌道に乗せることが容易ではないからです。その点をカバーし、無理のない起業法として注目されているのが「エフェクチュエーション」です(日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』No.185 P36-41「エフェクチュエーションによる企業成長」)。

 「エフェクチュエーション」は、インド人経営学者のサラス・サラスバシー氏が提唱した理論で、優れた起業家が行っている意思決定プロセスや思考とされています。

 「エフェクチュエーション」には5つの原則があります。

・手中の鳥の原則

 手持ちの手段を活用して「何ができるか」を発想する。

・許容可能な損失の原則

 うまくいかない場合の損失の許容可能性を評価する。

・クレイジーキルトの原則

 コミットメントしてくれそうなあらゆる人とパートナーシップを構築する。

・レモネードの原則

 偶然を梃子にして積極的に活用する。

・飛行機のパイロットの原則

 状況に応じて臨機応変に行動し、コントロールによって未来を創り出す。

 予測不能な時代の起業法として、多くの起業家の成長に役立つことを期待しています。

デコレーションケーキを5分で作って手渡すケーキ店

 お客の「困った」に正しく応えれば、レッドオーシャンの市場でも生き残ることができるという事例が、ケーキ店にもあります。

 店頭でお客から注文を受けてデコレーションケーキを作り、5分で手渡しすることで評判のケーキ店が埼玉県久喜市にある(有)ドゥーブルシェフです(日本政策金融公庫総合研究所『調査月報』No.180 P32-33「つくりたてのデコレーションケーキで大切な日を」)。

 同店は、デコレーションケーキ、プチガトー、焼き菓子といったメニューを揃えていますが、一番人気はデコレーションケーキです。店頭で注文してその場で作って渡してもらえます。オリジナルの飾りつけにも対応してもらえます。作りたてですので、スポンジが柔らかく、クリームや果物も新鮮で、その食感がお客を虜にします。

 店主の山本正隆さんが、このサービスを発想したのは、創業前に修行していたお店で、お客が目当てにしていたケーキが売り切れていたことに肩を落とすシーンを何度も見てしまったことがきっかけでした。お店の統括を任されていた山本さんは「売り切れていたケーキについてはおつくりします」と案内を出して、対応することにしました。すると口コミで評判になり、売上が倍近くに伸びました。この教訓をもとにして、山本さんは(有)ドゥーブルシェフを開店する時に、デコレーションケーキに絞って、その場で作るサービスを始めることにしました。その戦略は当たり、同店は評判の店になりました。

 (有)ドゥーブルシェフの取組みは、お客の「困った」に応えることがビジネスの原点であることを思い出させてくれます。全国のケーキ店の新しい取組みのヒントになるでしょう。